組織開発の難しさと複雑系④

この複雑系については、私も企業変革の場で色々と扱っている。

これはある事例であるが、

ある顧客企業で支援をしていた時のこと。その顧客企業は北関東で機械電気設備のエンジニアリング事業をやっていた。その企業の主な事業は「設備単体を製品として販売する製造業」であったが、エンジニアリング事業はその製造業の中に存在していた。そして、設備単体売りの製造業の中で、その自社製品と外部調達した機器でシステムとして構成し、顧客の製造ラインにシステム全体を設置し、稼働させる事業であった。
そのエンジニアリング事業でつくっている電気機械設備というシステムは、エンジニアリング部門のエンジニアが、単体の設備や機器を統合してつくっているのだが、そのシステムの構成要素である設備単体は、その企業の中の製造ラインで組み立てている。そして製造ラインの操作は人が行い、多くは単純化・標準化・マニュアル化されており、定型的な作業を派遣社員が行うものだった。
対して、エンジニアリング部門が行っているエンジニアリングは、それら設備単体を外部調達した機器と合わせて大きなシステムに作り上げるものである。まずはシステム設計の専門知識を持った電気や機械の設計者がシステム設計し、その設計に従ってシステムを納品する顧客の製造ラインに出向いてシステムという設備を工事を含めて設置し、稼働させるものだった。そして、そのシステムの納品先顧客企業の製造ラインでは、製造ラインの新設や休転時に工事を行うため、他の業者との関係性の中で種々の調整をするためのプロジェクトマネジャーなども必要となるため、人の能力や稼働に依存する事業形態であった。
しかし、エンジニアリング事業のエンジニアリング部門は、自分たちのエンジニアリング供給力の限界を明示できていなかった。それは、顧客からの要望を受けてカスタマイズ設計する一品一葉のシステム品だから、というのが理由だった。
そのエンジニアリング事業は、別部署の営業部隊が顧客と対峙し、エンジニアリング部門がエンジニアリング業務で構築するシステム案件として受注していた。そして、そのシステム案件を受注する際に、ほぼ、エンジニアリング部門の供給限界が考慮されていなかったのである。つまり、エンジニアリング部門の生産能力を考慮せずに、受注していたのである。
それは、上述したように、エンジニアリング部門が、一品一葉の商品をつくるので自分たちのエンジニアリング供給限界を語れていない、との理由も大きかった。
その結果、エンジニアリング部門は、いつも多忙で、入ってくる案件をなんとかこなそうと必死に業務遂行していた。言い換えれば、職人技と気合と根性で仕事をこなし続けていたのである。
この事業開始当初は案件数を少なかったため、有能人材による職人技でのエンジニアリングで問題なかったのだが、案件数が3倍以上に膨れ上がり派遣社員がマジョリティーな組織になると職人技では賄えず、そして、気合と根性で案件を処理し続ける中で、次第に人々は疲弊し、業務品質が低下し、手戻りや追加作業が活性し、コストが悪化、それが要因で利益が小さくなっていった。そしてそれは、エンジニアリング部門の稼働によって発生しているため、エンジニアリング部門へのコスト削減プレッシャーが強くなっていた。
品質が悪くなる要因は、ミスをするエンジニアリング部門にある。事象から見ると、それは明白であった。そして品質を良くするためには、まだ実施できていない「新しい機種の設計作業の標準化」が重要だった。その標準化をすることで、若手設計者でもミスなく設計できるようになる。そうすると、ミスが減り、手戻りが減り、追加コストの発生も抑えられる。そして若手が活躍できるのでエンジニアリング供給能力も増える。
しかし、そのエンジニアリング部門は案件をこなすことで精一杯のため、標準化に割ける時間がほとんどなかった。もし、設計作業の標準化ができれば、今よりも低コストで商品を売ることができ、利益も上がり、顧客への約束も果たせるとのことで、営業部門はエンジニアリング部門へ標準化の早急な実現を要求していた。しかし、エンジニアリング部門は標準化に割ける時間がない。なぜか?
そう、営業が案件をどんどん入れるからである。それは大きくみると喜ばしいことではあるのだが、実際にはエンジニアリング部門の供給能力をフルに使うほどの案件あり、部分的にはオーバーフローし、さらに顧客企業の製造ラインの稼働停止中に現地工事をしなければならないという制約もあり稼働の平準化も難しい状況の中で、エンジニアリング部門は設計作業標準化に割く時間がないのである。
しかし、営業は上部からの売上アップのプレッシャーがあり、案件を入れる。同時に利益確保のためにコスト悪化の要因の一つである標準化も要求する。そしてまた、営業部門は、その会社の製造業のやり方、つまり、定型化された材料・部品を、定型化された作業で組み立てて、パターン化されている製品として量を売るという事業の思考しか持ち合わせていなかった。つまり、この製造業の中のマイノリティーである「一品一葉のシステムをつくるというエンジニアリング事業」の本質を知らずに、この製造業の中のマジョリティーである「大量生産の製造業」の理解で、このエンジニアリング事業を観ていたのである。さらに、そのような製造業の中のエンジニアリング事業というものに対する理解不足は、営業部門に限らず、さまざまな間接部門でも同様であった。
そのような相互理解の不足により、エンジニアリング部門は他の部門から煙たがられていた。そのような状況の中で、コスト悪化はエンジニアリング部門の作業の結果発生している。そしてそれが利益を圧迫している。利益が圧迫されているので上層部は利益確保、売上アップを命じる。それに応じるために営業は案件を取ってくる。
このような負のスパイラルに落ちってどんどん状況が悪化してゆくのである。

では、「この状況での原因」とは、何なのだろう?
そして、このような負のスパイラルに落ちている状況で、原因をつきとめて、その原因を排除することができるのだろうか?

スキルの低い若い派遣社員がミスをするからコストが悪化する。それは問題点である。では、若い派遣社員ではない上級派遣社員を雇うか? いや、人材マーケットには多く存在していないし、採用できたとしても高コストなので利益を圧迫する、それはできない。
では、若い派遣社員でもパフォームできるような標準化を急ぐか? それはやりたいが案件をこなすので手一杯で標準化の時間がさけない。
では案件を絞るのか? そうすると営業は予算達成難しくなるので組織的にも難しいし、利益が確保できなければ未来への投資もできないため中期的に事業継続に赤信号が灯る。
では、案件を絞った状態で値上げして案件単価を上げられるのか? いや、そもそも新機種投入の際に、エンジニアリングコストの削減が可能なので販売単価も下がるということを顧客に説明しているので、今更値上げは通用しないし、巨大企業である顧客がイエスとは言わない。

さて、どうする。