組織開発の難しさと複雑系⑦
このエンジニアリング事業では本質的なコスト削減で効果の大きいもの一つは、エンジニアリング活動そのものの標準化だ。たとえ一品一葉の設計でも、共通部分は多々ある。そして、内製している主要製品のプロダクトライフサイクルは10年~15年だ。つまり、標準化を早期に実現して、低工数低コストでオペレーションすることを10年続けることで、利益の最大化を狙うのが本質的なコスト削減である。
このエンジニアリング事業の場合は、エンジニアリング部門に正社員と派遣社員が在籍し、設計事務所からの派遣社員が一般的な業務を担うことが多かった。結果、その設計事務所からの派遣社員の能力によってエンジニアリング品質も左右される。
派遣社員を正社員が教育する義務は基本的にはなかったので、スキルの低い派遣社員は数か月で離脱し新しい派遣社員が入るが、業界的に高スキルホルダーが少ないようで、低スキル人材が毎回入ってくる。しかし、エンジニアリング作業、設計作業の標準化がされていないため、低スキル人材の工数は肥大化し、業務品質は低く、それらをカバーするために高スキルのベテランや中堅がカバーに入る。結果、高い付加価値を出せる人材が低い付加価値しか出せない人材のカバーや作業を行う比率が高くなり、組織全体のアウトプットは低下する。
そこには、派遣社員の仕事に質を評価することができていない正社員側や、時間給がゆえに残業して給料を稼ぎたいという派遣社員側の思惑、そして、使えない派遣社員を教育する義務もなく教育する工数も割けない、もし教育しても手当など一切もらえないのでやらないという正社員側の意識も絡んでくる。
そのような複雑系の中で、本質的なコスト削減のためのエンジニアリング業務や設計業務の標準化は、案件処理で手一杯のために時間を割くことができずに、進まない。その標準化のために必要な時間がつくれない要因の一つは、営業が案件をどんどん入れて、エンジニアリング部門がそれを死に物狂いでこなし続けているという、需給管理機能の不良でもある。
前述したように、私がコンサルタントとして、営業部門とエンジニアリング部門の協働ワークショップで、このような複雑系への双方の理解をつくり、そして、需給調整により事業を正常な状態に進化させるアクションをつくり、エンジニアリング部門と営業部門が協働で活動することを決めた。そのためには、供給側であるエンジニアリング部門の供給力の見える化が重要でもあった。エンジニアリング部門が営業部門によって突っ込まれている案件をこなし続けていた要因の一つには、自分たちの限界がわからない、とのことがあったからだ。
製造業であれば製造ラインの負荷山積みを行い、全体の負荷調整を行うのは一般的なことでもあるが、そのような負荷山積みができていない状態でエンジニアリング部門が、職人技の塊として動いていた。それは、過去の案件数が少ない事業時代では最適なやり方であったかもしれないが、現在の案件数は事業開始当初の数倍であり、素晴らしい職人の技だけではマネージできない状態であるのだ。
であるので、まずは負荷山積みが見える簡易ツールを開発し、進行中の案件と、今後受注したい案件と、個々の案件の工程、ここでは設計工程やエンジニアリング工程となる、それを行う人のアサイン、を、週単位で設定することで、全案件の負荷山積みが数年先まで見えるようになる。この負荷山積みをエンジニアリング部門と営業部門で確認しながら、案件の受注や実施タイミングを、得意先を含めて調整するのが、まず活動の基盤となる。
その結果、エンジニアリング部門の稼働は限界を越えずに、エンジニアリング品質は以前よりも安定し、結果、ミスや手戻りも減り、追加コストも抑制され、業務全体が徐々に良い状態になっていった。
もちろん、解決すべき課題はこれだけではなく、このエンジニアリング事業はさらなる改革が必要な状態ではあるのだが。
前述したように、私がコンサルタントとして、複雑系を理解し、エンジニアリング部門と営業部門で協働して活動するような場をつくらなければ、恐らくこの事業はかなり危ない状況に陥っていたと感じられる。エンジニアリング部門と営業部門は、このような複雑系を理解はしておらず、相互の理解も不足し、しかしミッション達成のプレッシャーもあり、その結果、互いに仲が悪くなった。そのような状態のため、自分たちのチカラだけでは協働するきっかけすらつくることはできなかっただろう。
そして、元々は、このコンサルティング案件は、エンジニアリング部門のコスト削減を目的としたエンジニアリング部門の業務効率化であった。その前提でプロジェクトを開始したが、私チームが調査を開始して早々、業務効率化だけではなく、人組織にも課題があることが見えた。そしてまた、エンジニアリング部門への支援だけでは解決できないと判断し、営業部門を含めた活動をすべきであると客先のプロジェクトオーナーに提案した。その結果プロジェクトオーナーが理解し、私コンサルタントチームを信じてプロジェクトスコープを拡大することを快く許可されたからこそ、実現できた成果でもある。もし、客先企業のプロジェクトオーナーが、当初のプロジェクトスコープに拘り続けたのであれば、我々は本質的な成果を出せなかった可能性が高い。