組織開発の難しさと複雑系⑥
ここで書くことができたものより、実際のこの企業のこの組織の複雑系は、数倍大きく複雑なものだ。
その一部として、エンジニアリング部門は、その部門の上部組織からのコスト削減指示を受けていた。コスト削減額は、毎年数億円の目標値があり、エンジニアリング部門が目標達成の主たる部門であった。しかし、エンジニアリング部門のコスト削減活動は、全く本質的な活動ではなかった。
このエンジニアリング事業が行うエンジリアリング案件は、営業開始から受注し納品まで、長いもので2年や3年程度の期間が必要となる。対してコスト削減目標は年次での目標であり、年次で予実績評価をされる。エンジニアリング案件は年間100案件以上進行しており、長い期間の案件も短い期間の案件も、数十億の案件も数百万の案件も色々と存在している。そして、年間のコスト削減目標がたとえば3億円だとすると、その3億円という数字を出すために、エンジニアリング部門は、営業部門に出す社内見積を、正確に見積もるよりも、少し余裕を大きく持たせる、ということを実施していた。つまり、社内見積を高めに出しておいて、その後受注しエンジニアリングを行い納品したら、実績のコストは多めに見積もった社内見積よりも低い着地となる。その差額をコスト削減としていた。
案件によってはエンジニアリング品質不良によるコスト悪化もあるが、それもカバーするために社内見積を高めに設定する。そうすることで、年間のコスト削減目標を「クリアしている」ように見せていたのである。
エンジニアリング部門が高めの社内見積を営業部門に提出し、営業部門が利益を乗せて顧客に営業見積を出す。当然、競合他社よりも高めの金額になりがちなので、コスト面での競争優位性は低下する。そうすると、失注確率も高まる。失注確率が高まると、売り上げ減にもなるし、失注した案件に対する種々の営業活動もエンジニアリング部門での見積積算活動も、その活動に投入した人の行動がすべてムダになる。つまり、受注して価値提供した対価としての貨幣価値を得られないのに、投入した営業活動とエンジニアリング活動の一部が常に必要以上に発生しているのだ。そうすると受注できた案件ではない活動、の比率が多くなり、結果、受注している案件への工数投入を圧迫する。工数圧迫により業務品質・エンジニアリング品質が低下し、手戻りやミスが発生、追加コストが発生し、利益を圧迫する。
このような複雑系の一部により、事業利益の低下を止めにくい状態になっていた。
また、このように、営業開始から納品までの期間が2年3年あるにも関わらず、年次計画に適合させようと活動すると、本質的な活動がしにくくなる。にも拘わらず、本質を理解せずに年次での目標達成にこだわりすぎる日本企業が多い。
単年黒字だ、と意気込んでいても、実際には本質的な活動ができない。結果、1年目はなんとか黒字、2年目は赤黒トントン、3年目は少し赤、4年目からは赤が常連となる。これは経営層や事業マネジメント層にも問題がある。
もし、年次成績ではなく、事業の本質的な構造を理解し、単年黒字ではなく、3年程度での目標として、1年目を赤字でもよいと決断できれば、1年目は赤字、しかし本質的なコスト削減活動を開始し、2年目は損益トントン、3年目は黒字、4年目からも黒字が常連、と出来る可能性は大いにある。しかし、それを理解せず、理解していても実行できずに、単年での成果を必須とすることで、永続的な構造欠陥を抱えたまま事業成果が出せない状態を作っている。