組織開発の難しさと複雑系⑤

まずは、前に進むための必須の準備として、需給の見える化だ。
営業部門がエンジニアリング部門の共有能力を考慮せずに案件を入れているというのは、需要と供給のバランスが崩れている、つまり需給調整機能が不全であると言える。であるので、需給調整機能を強化することは必須だと考えられる。
その施策として、これまで見えていなかったエンジニアリング部門の供給力の見える化が最優先だ。それがなければ話が進まない。そして、その見える化した材料で、エンジニアリング部門と営業部門が「どうすべきか」を決めることだ。

当初は営業部門が非常に強気で、コスト増加の直接要因となっているエンジニアリング部門で発生している追加の設計費などを削減するための設計作業の標準化をエンジニアリング部門に要求していた。
しかし、需給調整機能の強化の一つとして需給の状態の見える化をできるツールによって、エンジニアリング部門の供給限界が明確になった。そして、営業部門が入れたすべての案件を処理する行為が、エンジニアリング部門での設計作業標準化に必要な時間も奪っていることを、営業部門のキーマンは理解できた。

であるのだが、ここでは書ききれないが、この活動は一筋縄では進まなかった。
様々な社内のステークスホルダーの意志があり、初回のワークショップは大いに荒れた。私はそのワークショップに、営業部門とエンジニアリング部門のキーマン以外に、間接部門のキーマンを入れていた。そして、荒れたワークショップに当事者として参加していた間接部門のキーマンが、この現状を理解し、同時にこの複雑系に存在している難しさを感じ取ってくれた。
そして、エンジニアリング部門と営業部門のワークショップは、大いに荒れた初回を終えた後に、次回開催を保留として、まずはエンジニアリング部門キーマンと、営業部門のキーマンと、間接部門のキーマンだけで別途ワークショップをつくり、そこで主な活動を推進し、徐々に展開してゆくことに方向転換を行った。

元々、この企業のエンジニアリング部門と営業部門は、非常に仲が悪かった。なぜ仲が悪かったかというと、前述したように、製造業の中のエンジニアリング業務という違いの理解不足を原点の一つとして、互いのことを知らずに、またこのような複雑系を理解することなく、相手に原因がある、と、勝手に思っていたからだ。問題解決のプロであるコンサルタントから見ると、その「理解している」は、「理解不足」でしかない。その理解不足により、負の感情が大きくなり、相手を攻撃する。そのような組織を数多くみてきた。
このエンジニアリング部門と営業部門の協働ワークショップでも、営業人材の一人が、単純系の思考で要因解析した結果と、対策を考えてきたものを提示していたのだが、残念ながら複雑系を扱う問題解決のプロである私からみると、その営業部門の人の問題解決への意志と行動は非常に素晴らしいのだが、単純系の思考でつくられた解析資料では役不足なのだ。本質的な複雑系を紐解くためには別の大きな絵が必要なのだが、それを理解することができていないため、つくってきた本人は十分と感じてつくってきているのだが、コンサルから見ると全く不足なのだ。つくった本人は良かれと思ってつくってたものが、残念ながら全体の進行にはマイナスに働く。しかし、つくってきた本人はマイナスに働くことも理解できないのである。
そして、ワークショップの中で私が複雑系の思考で処理を進めても、ほとんどの人は、単純系の思考をベースとしているため、すぐには理解できなかった。しかし、その理解が進まないことも私は想定済みであり、その状態から「では、こうしよう」と個々人と組織が行動を決めて約束するまでの、ワークショップの設計もしているし、設計通りに進まないことも想定済みであり、設計通りに進んでも進まなくても、ワークショップをマネージできるスキルを持っている。だからこそ、「では、こうしよう」ということを決めて約束するというゴールまでたどり着けるのである。
であるので、特に人組織の複雑系に対応できる外部のプロフェッショナルの存在は、企業変革には重要だと考える。言い換えると、企業内に複雑系を紐解く高スキル人材が、現状では多くないのだ。