組織開発の難しさと複雑系②
人組織は複雑系だ。そして、多くの企業はそのような人組織の複雑系に対して、未だに単純系の問題解決ロジックで進めようとしている、それが実態だ。だから、企業変革、とくに人組織の領域での変革が進まないことも多いのではないだろうか。私はそう感じている。
「複雑系」について、しっかりと理解している人は、未だそれほど多くないと私は感じている。それは、私との会話や、プロジェクトを進めるうえでの顧客の発言や行動などから感じとれる。もちろん、私も「複雑系」科学の専門家ではないのだが、自身での勉強と実践の中で自分なりに解釈し自分なりの解をもつことができている。
「複雑系」というのは、簡単に説明すると、その系の構成要素同士が互いに作用しているもの、つまり要素同士の相互作用があり、その相互作用によって状態が変化する系であり、因果関係という一方向の関係ではない系、そのように解釈している。
身近にある事象を単純化して例示すると・・・
A氏は暑いと感じるからエアコンをつけた。そうすると涼しい風が出てきてA氏は暑く感じなくなった。
しかしそのエアコンをA氏がつけたことによって、エアコンの熱交換器である室外機から熱気が外部に出た。
そのA氏のエアコンの室外機から出た熱気によって近隣のB氏が暑さを感じ、B氏の部屋のエアコンをつけた。そうするとB氏の部屋のエアコンから涼しい風が出てきてB氏は暑く感じなくなった。
しかしそのB氏のエアコンをつけたことによって、エアコンの熱交換器である室外機から熱気が外部に出た。そのB氏のエアコンからの熱気によって近隣のA氏が「涼しさが弱くなった」と感じ、そしてエアコンの温度を下げた。それによって、A氏のエアコンの熱交換が活発になり、A氏のエアコンの室外機から熱気が外部にさらに多く出た。それにより近隣のB氏が「涼しさが弱くなった」と感じ、そしてエアコンの温度をさらに下げて。それによって熱気がさらに外に出て・・・
このような相互作用によってA氏とB氏の系全体の原因と結果が複雑に絡み合いまるで無限ループのような事象も含めたりするのが、複雑系である。この時、A氏の系のみ切り取って考えると、A氏の系は、B氏の系からの影響という外乱によって変化している単純系とも解釈できる。
しかしさらに、このA氏とB氏がエアコンをつけたことによって、電気エネルギーは消費され熱エネルギーに変化される。その熱エネルギーつまり熱は大気中に放出されていることから、大気の温度上昇に寄与してゆく。大気の温度上昇が進むとますます暑く感じるため、エアコンの稼働が高まる、そうすると大気がさらに温度上昇し、人々はエアコンを稼働させ、大気の温度が上昇し・・・。
さらにエアコンの稼働が高まると電力需要が多くなるため電力会社は電力供給量を増やすために遊休の火力発電所を再稼働させる。すると発電所からの熱が周辺の大気の温度を上昇させる。さらに発電所から出る炭酸ガスが大気に放出され温室効果が高まるため大気の温度が高まり、その環境ではこれまで以上に暑く感じるのでエアコンを稼働させ・・・。
と、A氏とB氏という環境の外の環境との相互作用も起きている。これが複雑系だ。
では、因果を整理すると、どうなるのだる。追及した原因を排除することで、結果が変わるのか。原因はA氏なのだろうか、それともB氏なのだろうか、火力発電所なのだろうか、それとも温暖化した大気なのだろうか。
企業変革のみならず、問題解決の場面は日常にも溢れている。その問題解決をするうえでも、複雑系か単純系かの判断は重要だ。そして、これまで支援した多くの企業では、単純系のアプローチで複雑系を解決できると思い込んでいる(というか、複雑系を知らないため、自分が勉強したやり方としての単純系のアプローチ以外の選択肢を選択するという前提も無い)人も多い。
では、単純系とはなにか? それは、原因と結果がロジックツリーのwhyツリーの構造で概ね表現できるものと解釈できる。つまり、単純系には結果をつくった要因をさかのぼると原因があり、その原因を排除することで結果を変えることができるというものだ。これは、日本の製造業が昭和の時代から活動してきた小集団活動などで、しっかりと勉強された方が多い分野でもある。特に、品質不良の原因を追究して、その原因を排除する活動などは多くの人々が関わったのではないだろうか。とくに、設備不良など人がほぼ関わらない事象の場合は、単純系の問題解決スキルが重要となる。私も事業会社時代は大いに改善活動・小集団活動を行っていたので自分事として理解できる。
しかし、前述したように、複雑系は、要因をさかのぼっても、多くの場合は効果的な手を打つことが難しい。
ほとんどの企業は、人が活動する。そして、チーム・組織として機能を担う。その機能は相互に協働し、トレードオフの関係を乗り越えて全体として成果を出す。そのほとんどすべてに、人間の意志が介在している。その人の考え方や意志、行動によって、機能の動き方も変化し、その変化によって相互作用を受けている機能も変化する。そうやって全体は部分の相互作用の結果によって変化し、同じように全体の影響は個々にも作用する。そのような複雑系には、単純系の問題解決の手法だけでは、難しいことがほとんどなのだ。しかし、その複雑系であるということを理解せずに、単純系の思考で対処しようとしている人が多い。なので、人組織の問題解決ができないのだ。部分を捉えて因果を解析した分析の得意な人が原因を説明しても、周囲の人が「とは言えさぁ」「そんなこと言ってもね・・・」と出てくるのは、まさに複雑系のある部分のみを単純系で表現したことと、それを受けて複雑系であることを暗黙的に感じ取って反論しているという典型例ではないだろうか。